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地域住民を対象とした魚の摂取頻度およびn-3脂肪酸の推定摂取量とABCA1遺伝子のDNAメチル化率との関連

藤田医科大学医療科学部 藤井 亮輔、鈴木 康司(被支援者)

Fujii R, Yamada H, Munetsuna E, Yamazaki M, Mizuno G, Ando Y, Maeda K, Tsuboi Y, Ohashi K, Ishikawa H, Hagiwara C, Wakai K, Hashimoto S, Hamajima N, Suzuki K.
Dietary fish and ω-3 polyunsaturated fatty acids are associated with leukocyte ABCA1 DNA methylation levels. Nutrition, 2021, 81: 110951, doi: 10.1016/j.nut.2020.110951
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0899900720302343

概要

 n-3系多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)を豊富に含む食事は、心血管疾患(CVD)のリスクを低減すると考えられてきました。また、その有益な効果は、脂質代謝と炎症に関連する遺伝子のエピジェネティックな状態によって媒介される可能性が先行研究で明らかにされていました。そこで、我々の研究グループでは、HDLコレステロールの生成に関与するATP-binding cassette protein A1(ABCA1)という遺伝子のDNAメチル化に着目し、魚の摂取頻度や推定脂肪酸摂取量との関連を298名の日本人集団を対象として検討しました。その結果、魚の摂取量が多い人は、ABCA1遺伝子のDNAメチル化率の低値と関連していることが分かりました。また、n-3 PUFAおよびn-3系高度不飽和脂肪酸(n-3 HUFA)の摂取量が多い人は、ABCA1遺伝子のDNAメチル化率が低値を示しました。今回の研究成果は、n-3PUFAの循環器疾患に対する予防的な効果の一端をABCA1遺伝子のメチル化が担っている可能性を示唆するものとなりました。一般的な日本人集団における循環器疾患予防に資する新たな知見であると考えています。

魚の摂取頻度とABCA1遺伝子のDNAメチル化率との関連

 まず、食物摂取頻度調査票(FFQ)の結果をもとに分けた魚の摂取頻度(週1〜2回以下、週3〜4回、週5〜6回以上)とABCA1遺伝子のDNAメチル化率を調査しました(図1)。性別、年齢をはじめとする交絡要因をモデルに組み込んだ多変量解析の結果、魚の摂取頻度が少ない群(週1〜2回以下)に比べて、適度に摂取している群(週に3〜4回)、多い群(週に5〜6回以上)では、ABCA1遺伝子のDNAメチル化率がそれぞれ2.51%(SE:0.82)、3.16%(SE:1.08)低い結果となりました。

図1. 魚の摂取頻度とABCA1遺伝子のDNAメチル化率との関連1,2
1多変量解析の調整項目は、年齢、性別、喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、脂質摂取量、好中球分画割合、脂質異常症の服薬
2エラーバーは、標準誤差を示している。

脂肪酸の推定摂取量とABCA1遺伝子のDNAメチル化率との関連

 次に、FFQから推定した脂肪酸の摂取量とのABCA1遺伝子のDNAメチル化率との関連も多変量解析にて検討しました(図2)。飽和脂肪酸(SFA)、単価不飽和脂肪酸(MUFA)、多価不飽和脂肪酸(PUFA)、n-6系不飽和脂肪酸(n-6 PUFA)はABCA1遺伝子のDNAメチル化率と有意な関連を認めませんでした。その一方で、n-3PUFAおよびn-3 HUFAが1単位高い場合、ABCA1遺伝子のDNAメチル化率がそれぞれ5.75%(SE:1.76)、2.45%(SE:0.86)低い結果となりました。
 さらに、脂肪酸クオリティと表現されることもある脂肪酸摂取量の比についても検討を行いました。その結果、SFAに対するn-3PUFAの比(n-3 PUFA/SFA)が1単位高い場合、ABCA1遺伝子のDNAメチル化率が13.44%(SE:6.14)低い結果となりました。また、n-3 PUFAに対するn-6 PUFAの比(n-6 PUFA/n-3 PUFA)が1単位高い場合、ABCA1遺伝子のDNAメチル化率が1.12%(SE:0.39)低い結果となりました。

図2. 脂肪酸の推定摂取量とABCA1遺伝子のDNAメチル化率との関連1,3
1多変量解析の調整項目は、年齢、性別、喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、脂質摂取量、好中球分画割合、脂質異常症の服薬
2脂肪酸の摂取量は、対数変換した値を用いている。
3エラーバーは、標準誤差を示している。
SFA:飽和脂肪酸;MUFA:単価不飽和脂肪酸;PUFA:多価不飽和脂肪酸;HUFA:高度不飽和脂肪酸

今後の展望

 今後は、これまでに多くの研究を積み重ねてきた横断研究のデザイン(Munetsuna E, et al. Ann Clin Biochem, 2018; Fujii R, et al. Nutrition, 2019; Maeda K, et al. PLoS One, 2020)だけでなく、近年取り組んでいるDNAメチル化率と曝露および疾患発症に関する縦断的な解析(Tsuboi Y, et al. J Epidemiol Commun Health, 2021)をさらに発展させていく必要があります。また、ABCA1遺伝子だけでなく多様な遺伝子のDNAメチル化率について、生活習慣→エピジェネティックな変化→形質発現・疾患発症という媒介効果の推定(Fujii R, et al. Am J Clin Nutr, 2019)やSNPなど遺伝的な素因を組み込んだ分子・遺伝疫学研究をさらに推進したいと考えています。

謝辞

 本研究の遂行にあたり、多大なるご協力を頂きました北海道二海郡八雲町のスタッフおよび健診に参加頂きました住民の方々、研究に参画している研究者の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。また、サンプルの収集および血液成分の測定に関して、「コホートによるバイオリソース支援活動」より支援賜りましたこと、心より御礼申し上げます。